出オチです。手持ちリソース有効活用ということで、普段撮りに使っているソニーフルサイズミラーレスカメラのα7ⅱをPCからリモート制御できるか、という検証をここ最近進めていました。ソフト面での検証は問題なく完了したため、いよいよ天体撮影に使ってみようというのが今回の趣旨です。

■構成:
・鏡筒:EvoGuide-50ED
・カメラ:ソニーα7ⅱ
・架台:AZ-GTI(赤道儀)
・ガイド:50mmオールドレンズ+ASI120MM-mini

■準備
 当日は雲が少ないという予報だったので、19時過ぎから張り切ってセッティングしました。

↓予報の割に妙に雲が多いなーと思いながら、SharpCapで極軸調整している様子
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※極軸調整、アライメント、導入は全てガイドカメラで実施しました。

M42を導入した状態で、ここでやっとカメラの電源を入れます。Imaging Edge Remote を起動してライブビュー画面を出しますが、焦点距離242[mm]なので非常に物足りない画角です。(当たり前か)

 これはImaging Edge Remote アプリの問題のような気がしますが、ライブビュー画面ではISO感度を変えると画面に反映されるものの、露光時間数秒のような長い設定はライブビューに明るさが反映されないようです。ライブビューの意味ある? 仕方がないのでライブビューはピント合わせ用などで割り切って、数秒露光した画像をビューワーで都度チェックするという運用にします。(あれ、APT使っているときと変わらないような気が。。)

 試しにISO800、5秒露光で1枚撮ってみましたが、曇りがちで空の透明度が低いのか、カメラの感度がイマイチなのか、やたらと背景が明るい割に星のコントラストがイマイチです。 あれ、ひょっとしてこれが光害というやつ・・・? 今までSVBONY CLSやIR640 proなどの強力なフィルターがあるのが当たり前だったのですが、今回は31.7[mm]のフィルタを仕込む場所が無いのでノーフィルターでやっています。フィルター無しで光害がこんなにひどいとは、今まで重装歩兵として参加していた戦場に裸で放り出されたような不安感があります。いや、今までも足軽装備だったので重装歩兵ではないな。保護者みんながスーツなどで正装して臨んでいる子供の入園式に裸で参加しているような感じ? 結局裸になるのは同じか。

 とにかく、このときの試行はすぐに曇ってきたのと、ミラーレスカメラのほうのバッテリー持ちが心配だったので電源OFFにして、ガイド用のPHD2の画面を「雲量モニター」として監視しつつ、撮影は一時中断しました。待っている間に季節外れなM42よりも、おとめ座銀河団付近のほうがタイムリーに思えてきたのでM86を導入しておきました。当然、こちらも曇りっぱなし。

■撮影開始
 結局、セッティング開始してから2時間半後の21時半にようやく雲が晴れてきたので撮影を開始することができました。ISO800、露光3分では完全に白飛び。Pixinsightでも真っ白なのでどうしようもありません。光害怖い。IS800、露光1分の複数露光は大丈夫でした。ソニーアプリとしても安定動作しているので、この設定で枚数を稼ぐことにしました。

 次の課題が、撮影した1分露光RAWデータをどのように後処理していくか、という事です。ソニーのRAW画像形式である”ARWファイル”はPixinsightでは普通に開くことができるのですが、WBPPで処理しようとすると、ログには何も残らないのにポップアップが出てエラー終了するようです。試しにPixinsightで開いた3枚程度のARWをFITS形式で保存し直し、WBPPすると問題なくスタックできたので、ファイル形式のみの問題と考えています。(ちなみにこのときの3枚スタック=3分露光で、星ではない何か=マルカリアンチェーン的なものが薄っすら写っていました。SharpCapのLiveStackでサクサク天体が浮かんでくるのも楽しいですが、いつもと違うやり方で天体が浮かび上がってくるのも、自分の中では初めての技術で天体を”発見”した感があって、それなりに感動できます。年取ってもこんな些細なことで感動を味わえて、天体趣味って本当に素晴らしいですね。(水野晴郎風))

■後処理準備
 ということで次の課題は、数10枚のARWファイルをいかに効率的にFITSに変換するか、という事です。適当にググってみて以下フリーソフトを見つけました。
星空公団 [Hoshizora Kodan]
 EXEをダブルクリックしても何も起こらなかったのですが、変換したいファイルをEXE上にドラッグアンドドロップしたら処理実行できました。(実行時に処理したいファイルを引数として指定する必要があるという、自分でCで書いたソフトでよくある挙動) 動作は軽快、複数ファイルも一括変換できるので良さげなのですが、肝心の変換後のFITSファイルがイマイチでした。Pixinsightで開いてみてもグレー一色で画像情報が無くなっています。。ということで使えませんでした。

 次に考えたのが、RAWの一括FITS変換ぐらい、Pixinsightで標準装備されているのでは?ということです。普通にありました。↓
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WBPPなどと同じく、SCRIPT → Batch Processing → BatchFormatConversion という名称そのままの機能がありました。(名称そのままだからメニュー画面を眺めるだけで見つけることができたので、機能名称は重要ですね。)
 使い方も非常に簡単で、Input Imagesの”+Add”から変換したいRAWファイルを追加し、出力フォルダを設定、最後に変換したいフォーマットを指定して実行すればOKです。 ちょっと不安なのが、Output extensionが選択式でなく、自分で任意の拡張子を入力するところです。 変換処理自体も非常に早いので、「ファイルの形式変換でなく、ただ拡張子を書き換えているだけでは??」という不安が湧いてきますが、さすがにそんなことは無くて、きちんとRAWファイルがFITSに変換されていました。(60枚の変換で、体感1分も処理かかっていないようです。)

■後処理本番
 ということでようやく、いつものPixinsight WBPPが使える状態になったので早速スタックしていきます。今まで自分の非力なノートPCでは、ASI224MC、ASI120MM-miniということで100万画素+αぐらいの画素数のものを処理していたのですが、それでもWBPP、EZ Denoiseなどは非常に遅かったので、今回の2400万画素はかなり堪えます・・・

 他にも今回の試行は制約条件に事欠かないのですが、一番影響大きいだろうと事前に予想していた事が、「EvoGuide-50EDはガイド鏡で周辺像はフラットナー無しでは激しく流れる」という点です。早速、WBPPで1分60枚分をスタックし、STFかけただけの絵を見てみます。↓
masterLight-BINNING_1-FILTER_NoFilter-EXPTIME_60
表示環境によって、どう見えているのかは正直わからないのですが、周辺光量落ちと星像の流れがハッキリわかると思います。(像はともかく、一応フラットも取ったので周辺光量落ちはここまで目立たない期待なのですが。。)

 この時点で正直心が折れかけたのですが、中央部分を拡大してストレッチしてみると、「明らかに星でない何か」が写っているのがハッキリとわかったので、俄然やる気が出てきました! ↓
preview_center_zoom

 まずは最初の画像の強烈な周辺光量落ち(というかケラレ)に内接するような領域をプレビューでクロップし、そこからDBEで被りを除去していきます。そこから毎度お馴染み(手抜き)ノイズ削減処理のEZ Denoiseを実施します。できあがったのが以下↓
M86_DBE_Hst_Dn

  • 撮影日:2021年4月2日22時30分~23時30分
  • 撮影場所:愛知県名古屋市(SQM=18.75)
  • 鏡筒:Skywatcher EvoGuide-50ED
  • フィルター:無し!
  • 赤道儀:AZ-GTI
  • カメラ:ILCE-7M2(ソニーα7ⅱ)(ISO800)
  • ガイド:50mmF1.8+ASI120MM-mini、PHD2オートガイド+ディザリング
  • 撮影:Imaging Edge Remote 、露光時間1分×60=60分
  • 画像処理:Pixinsight
 ↑今回の記事のその他画像も全部同様です。

世の中一般に公開するレベルでは無いのですが、「ガイド鏡であるEvoGuide-50EDでフラットナー無しでフルサイズカメラで撮影(&APS-C相当ぐらいにクロップ)した画像がどのようなものか?」という超ニッチな学術的興味に応える内容にはなっていると思います。

 これはこれで、おとめ座銀河団に向かって自分がワープしているような感覚を味わえるので、一興ではないでしょうか。(ワープする気分でない方に対しては、申し訳ございませんとしか言えない)

 しかしフラット画像はしっかり撮ったつもりなのにゴミ&周辺光量落ちがひどいですね。。 確かに撮影したフラット画像を目一杯ストレッチしても、ここまでの周辺光量落ちやゴミは浮かび上がってこないので、ライトフレームとフラットフレームで何か条件が合っていなさそうです。(今回のフラットは、昼間に4Kディスプレイに白一色の画面を写し、スーパーの袋を鏡筒先端に被せて、鏡筒先端と4Kディスプレイを接触させて撮りました。 あ、自分で書いてて気が付きましたが、鏡筒先端が接触していると、光が入ってこないのでダメですね。。中途半端なダーク撮ってるようなものでした。)

■見せ方の工夫
 少しは見える画像にするために、クロップを駆使してみます。まずはM86付近。↓
M86_DBE_Hst_Preview01


 続いて、マルカリアンチェーン?の構成がわかる範囲
M86_DBE_Hst_Preview011


 その他、”特に狙って撮るつもりなかったけど、何か勝手に写り込んでいる銀河”を適当にピックアップしました。
 ↓おそらくM88 らしきもの。(誰かの”正解例”画像を載せたいのですが、著作権的に怪しい気がして掲載できず)
M86_DBE_Hst_Preview012

 ↓M87 
M86_DBE_Hst_Preview013

その他、調べきれなかったモノたち
M86_DBE_Hst_Preview03

M86_DBE_Hst_Preview014

M86_DBE_Hst_Preview02

 この”人力アノテーション”、自分で苦労して取得した画像ということもあると思うのですが、めちゃくちゃ楽しいです!
 と言いつつ、機械的にやってみるのも試したい!ということでPixinsightで ImageSolver → AnnotateImageの一連の作業をやってみたのですが、Image Solver はできていそうなものの、AnnotateImageで以下エラーがでてうまくいきませんでした。

   M87 = NGC4486 (0.00 mas)
   M84 = NGC4374 (0.00 mas)
   M86 = NGC4406 (0.00 mas)
   M99 = NGC4254 (0.00 mas)
   M88 = NGC4501 (0.00 mas)
Found 5 duplicate objects in 9.998 ms
Rendering annotation
** Warning [162]: C:/Program Files/PixInsight/src/scripts/AdP/AnnotateImage.js, line 1141: reference to undefined property (intermediate value)[(intermediate value)].pos
*** Error [222]: C:/Program Files/PixInsight/src/scripts/AdP/AnnotateImage.js, line 1141: TypeError: (intermediate value)[(intermediate value)].pos is undefined

ここで諦めても良いのですが、ダメ元で以下サイトお任せでやってみたところ、見事にアノテーションしてくれました!
Astrometry.net
5078464


 こんな流れまくっている汚い画像でも正確にアノテーションできてて凄いな。。特に左上のケラレてる所なんて、もう完全に雰囲気でやってるでしょ。。

■まとめ
 ソニーカメラによる天体撮影に初めてチャレンジしてみました。フィルター無しで運用していくのは正直つらいところですが、センササイズの大きさによる広い画角、それなりに高精細な画素数、画素数の割にセンササイズが大きいことによる1画素辺りの大きさ=感度など、メリットも沢山ありそうです。今の自分の鏡筒では周辺像の流れが凄いので被写体、画像活用方法が限定されるとは思うのですが、ハマれば非常に楽しいです!(今回の内容はSamさん記事の二番煎じ感が非常に強いですが、やっているレベルが全く異なるため、ハードルを下げて世の中の方々に安心感を提供するのが自分の記事の存在意義かな、と思っております笑)